グアテマラの女性たちの暮らしと布

~グアテマラに魅せられて~

タペストリー織物作家

小林グレイ愛子(Aiko Kobayashi Gray)

 私には好きでたまらないものが二つある。<織ることとグアテマラ>がある限り幸せに生きられる。魂込めて織られた古い布達は、歴史、文化、自然界、家族のことなどの語り部。そしてどんな人が織ったのか想いを馳せることもできる。こんなことが今年もこれからも続くと思っていたのだ。 

 ところが思いがけないことが起こったのである。コロナだ。3月にグアテマラを訪れ、のんきにある村で草木染を楽しんでいたある日のことだった。突然の空港閉鎖、そして時間制限の外出禁止の戒厳令が翌日に発令された。アメリカ人の友人とタクシーで4時間ちょっとのメキシコ国境のテクウマンまで行く決意をしたのは10日後のことだった。問題なくスムーズにグアテマラ出国、橋を渡ってメキシコに入国、そして米国まで乗り継いで飛べたのは本当に運が良かったと今思い出している。

小林グレイ愛子(Aiko Kobayashi Gray)
小林グレイ愛子

 しかし、ここカリフォルニアに着いてから死亡者があっという間に増えていく。グアテマラの方が平和だと言えるぐらいの理不尽な人種差別事件と立て続けに起こった暴動と略奪。デモ隊に対し、催涙弾を警官隊が発射する音がポンポンと家まで聞こえてきた。 

 私も有色人種であること、難民疑似体験をあちらでもこちらでもせざるを得ない今回のことはきっと意味のあることなのだろう。

 こんなことがあった。山の中にあるトドス・サントス村の朝はとても寒い。とても耐えられず、前日手に入れたばかりの手織りの男性用ジャケットを着ていた。知り合いの若者が近づいて来てこう言った。「aikoこれは男物だよ」と。寒いから着ていると言う理由は全く通じなかった。何度かやり取りして最後に私はこう言い切った。「私、今日から男だから」と。これでやっと彼はあきれて立ち去ったのだ。

デニスグレイ撮影
デニスグレイ撮影

 マチスモという男性優位の社会でありながら、女性が明るく賢く働く家であればあるほど、安泰でうまくすべてが回っているように思う。マヤにとって太陽は男性の象徴であるが私には女性のことだと思える。織物は女性の仕事であるが、その背景にある歴史、文化、マヤ思想が織り込まれていること自体が素晴らしい民族の教育でありアートを生み出す魂をも育てているのではないだろうか。そんな女性の世界の中で少しずつ男性の後帯機の織り手、刺繍手などが出てきている。しかし、刺繍や高機、絣の技術などはヨーロッパやアジアから来ている輸入文化で実は男性の仕事だった。編み物を男性がするのも北ヨーロッパから来たものと推測される。つまり大事な輸入文化は男性のみの仕事だったのだ。ちょうど日本の伝統工芸が男性の世界のように。

 このコロナ禍で、女性や幼児虐待などが世界中で増えているように思う。人間の愚かな習性として弱いものを虐げることによって自分自身を守ろうとするのは本当に悲しいことだ。

 今回のコロナ禍でのステイホームによって米国ではDVの犠牲による死亡者が30%以上増えていると先日のニュースで言っていた。グアテマラでのDVは内戦という先住民虐殺の歴史の中で男性の持って行きようのない心の傷(例えば家族の誰かを亡くしている)も原因にあると思う。米国で噴き出した人種差別問題も奴隷制度、南北戦争の歴史まで遡っていくように。

 ここ米国では共働きのカップルが一般的。一人一人性差無く自立する意識と共に高額な医療費、税金を支払うこと、将来の年金を考え夫婦で働くことが当たり前なのだろう。経済的自立があるからこそ簡単に離婚できるとも言える。そのことが幸せかどうかは別にして、連れ子同士が混ざる2度目3度目結婚家庭が周りには多い。

 このコロナが終息した後、どのような世界が待っているのだろうか? 家族や友人同士、見知らぬ人も含めて信頼し支えあい、そして自分にとって大切なものを育てていける希望ある社会を思い描き進んでいきたいものだ。

1.グアテマラとの出会い

2.イシル地方

3.チャメルコ

4.サンティアゴ・アティトラン

5.チチカステナンゴ

6.サン・アントニオ・アグアス・カリエンテス

7.民族衣装のいろいろ

8.風呂敷文化

9.祭り

10.山の暮らし湖の暮らし

11.番外編